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災害に強い家づくり「レジリエンス住宅」

2022.10.05カーボンニュートラル 暮らし方 家づくりのヒント お知らせ

北海道で自然災害による被害が増加しています。2016年台風10号による大水害や、2018年の北海道胆振東部地震による液状化被害とブラックアウト…。こうした被害リスクを軽減できる「レジリエンス」という新しい考え方で家づくりを行う動きをご紹介します。

レジリエンスという考え方

2011年3月11日の東日本大震災以降、住宅・建築業界で徐々に浸透してきた言葉の一つが“レジリエンス”。

“レジリエンス(resilience)”とは、回復力や復元力、弾力といった意味の英語。住宅・建築では主に1.災害時に被害を最小限に抑えるための備え 2.被災してもできるだけ早い復旧を可能にする備え―などの意味で使われています。

 

近年、日本では毎年のように自然災害で大きな被害があります。今年3月には最大震度6強を記録した福島沖地震、6月に同6弱を記録した能登半島沖地震、7月から8月にかけて東北を中心に河川の氾濫を引き起こした局地的豪雨などがありました。道内でも6月に大雨で旭川市内の河川が氾濫、8月には宗谷地方北部で最大震度5強の地震が発生しました。わたしたちは、いつどこで大きな災害にあうかもしれないのです。

日本で大地震が増えています

大地震も局地的に起こる大雨や竜巻も、どこでいつ起こるかを正確に予知することは今のところ不可能です。そこで、被害リスクを最小にし、被災した後にいち早く復旧できる家づくりを考えていく必要があります。

建築業界ではレジリエンスというキーワードを、自然災害への備えに加え、ヒートショックや熱中症、転倒など健康リスクへの備えと、創エネ・蓄電といったエネルギー喪失リスクへの備えも含めた広い概念として捉えています。

ヒートショック対策もレジリエンス住宅に必要です

健康リスクへの備えは、いまだ収束が見通せないコロナ禍や、熱中症・ヒートショックといった夏の暑さ・冬の寒さによる室内での健康被害などを最小限に抑えるという意味です。

エネルギー価格はどれも上昇傾向です

 

また、エネルギー喪失リスクへの備えは、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した電気・ガス・灯油の大幅な価格上昇などが背景にあります。

今後の自然災害では、避難所に長期間いるのではなく、なるべく在宅避難で済ませたいという人が増えてくることも予想されます。そのために、自宅が災害に遭った後も安全で快適に暮らせる備えが必要です。

 

大手は専用商品で安心をアピール

レジリエンスという言葉が徐々に浸透してきたことで、全国大手のハウスメーカーを中心にレジリエンス住宅を商品化する動きが出てきました。

住友林業ホームページより

例えば住友林業では、地震に強い構造体に太陽光発電や壁掛け型の蓄電盤、雨水タンク、停電時に自動点灯する保安灯などの災害対応設備を備えた『レジリエンス プラス』を2016年から発売しました。一条工務店では水密性が高い窓や逆流防止弁付きの配水管などを採用した耐水害住宅を2021年に開発。さらに耐震等級3を上回る構造体と太陽光発電や蓄電池なども導入した住宅を『総合免災住宅』としてアピールしています。このほか、セキスイハイムやパナソニックホームズなども商品を発売しています。

しかし、レジリエンス住宅は特別なものではありません。

スタイロフォームを外壁に張って堅固に建てるSHSの家は、高断熱・高気密で家の中の温度差がほとんどなく、冬に暖房が停止しても温度低下が緩やかにすむメリットがあります。これに、太陽光発電や蓄電池、あるいは抗ウイルス建材など、新しい設備・建材を取り入れた家づくりを行えばレジリエンス力の高い家になります。

赤字部分がレジリエンス性に関わる部分

北海道も「北方型住宅2020」という独自の性能基準を設ける中で、レジリエンス性に注目し、基準の中に加えています。たとえば、求められる4つの基本性能の中に「安心・健康」を設定し、「地震時の倒壊を防ぎ、冬季の自宅避難のため無暖房でも一定室温を確保・建物内での避難経路確保、落下物の防止」を求めています。

もっと身近な対策もあります。

たとえば、燃料を備蓄しやすく、電気を使わずに暖房できる薪ストーブやペレットストーブ、そして石油ポータブルストーブもレジリエンス力を高めるアイテムです。

ライフラインを確保することがレジリエンス力を高めることになる

リスク分散という意味では、暖房、給湯、調理を1つの熱源にまとめず、たとえば電気・ガス・灯油と違う熱源を使うことも大きな意味があります。

 

地震対策は耐震等級とハザードマップがカギ

自然災害の中でも発生の予測が困難な地震への備えは、地盤がしっかりしている安全な土地に、高い耐震性を確保した構造体を建てることが大原則です。

土地を選ぶ際には、1.液状化 2.土砂災害 3.津波 の3つのリスクは確認しておきましょう。いずれも市町村で公表しているハザードマップを見れば、液状化が起こる可能性や、土砂災害の危険がある場所、津波の浸水想定区域などを確認できます。

地盤調査会社も液状化危険度などの情報を提供している

可能な限りリスクの小さい土地を選ぶことが重要ですが、リスクがある場合は、対策を取ることが必要です。例えば液状化リスクのある土地に建てる場合は、ベタ基礎(耐圧版)に加えて杭工法を採用するなどの対策を行います。

 

できればクリアしたい耐震等級3

木質構造の専門家であるJ建築システム(株)社長の手塚純一氏(工・農学博士)は「新築でもリフォーム・改修でも耐震等級3は標準と考え、さらにそれ以上の性能を目指すべき」と話しています。

過去の大地震を振り返ると、地震の揺れの強さを表す加速度(gal・ガル)は、1995年の阪神・淡路大震災で891ガル、2016年の熊本地震で1580ガル、2018 年の北海道胆振東部地震で1504ガルと、建築基準法で想定されている300~400ガルを大きく上回っています。耐震等級3は、法律で求められる耐震性の1.5倍の強度があります。これを実現するためには、間取りに制限が出るほか、設計費用もアップしますが、幅広い安心のためにはクリアしておきたい水準だと言えます。

地震対策としては高い耐震性に加え、制震・免震部材の採用も一つの方法です。制震は地震による揺れを吸収する部材を施工して建物の損壊を防ぎ、免震は建物の基礎と上部構造との間に地震の揺れが直接伝わることを防ぐ装置を設置し、建物の損壊を防ぎます。

制震部材は施工も比較的簡単で、1棟あたりのコストも数十万円程度で済むことから、標準仕様としている住宅会社もでてきています。

 

浸水を防止・軽減する設計で水害リスク減らす

豪雨被害も近年の国内で頻発しています。今年8月中旬に道南で激しい雨が降り、住宅などの建物に浸水被害が相次いだように、水害は道民にも身近な災害になっています。

まずは予想される浸水の深さなどの水害リスクをハザードマップで必ず確認しましょう。購入予定の土地が市町村の水害ハザードマップ上にある場合、重要事項として売り主が買い主に説明することが法律で義務化されています。

建物への対策としては、例えば基礎に排水用のスリーブを通し、土間面にも水勾配をつけておけば、床下浸水が発生してもスムーズに排水できます。

1階が水没するような想定以上の雨量への備えとしては、リビングや水回りを2階に配置して在宅避難を可能にした間取りや、トップライトなど屋根への脱出窓の確保等もあります。機器が1階に配置されていると、床上浸水ですべて使えなくなる危険性もあります。そこで、水回り機器や給湯・暖房機器、蓄電池等の設備を可能な限り2階以上に設置することも考えられます。

 

太陽光発電でブラックアウトに備える

2018年北海道胆振東部地震では、ほぼ北海道全域が停電になる「ブラックアウト」を経験しました。特に地震の大きな被害がなかった道東・道北でもブラックアウトによる2次被害が問題となりました。

こうした予期せぬ事態に備え、エネルギーを一定時間自力で確保できる設備を導入することは今後考える必要があります。

たとえば太陽光発電。晴れていれば家庭内の電力を完全に自給できます。これに蓄電池を組み合わせれば、悪天候時や夜間でも発電した電力を使うことができてより安心です。

スマートeチェンジで非常時には外部電源に切り替えられる

今住んでいる家で対策するには、ハイブリッド自動車やポータブル発電機から電源を供給するという選択肢もあります。「スマートeチェンジ2」(発売元・キムラ)は、トヨタなどのハイブリッド自動車と接続し、ハイブリッド自動車から供給される100V電力を家庭内に引き込む分電盤の役割を果たします。ポータブル発電機も使えます。スマートeチェンジ2は、10万円で買えるのもメリットです。

太陽光発電とEVがあれば、停電時も安心だ

普及が始まったEV(電気自動車)とV2Hを組み合わせれば、電気自動車を大型蓄電池として活用できます。今年発売された日産自動車の軽EV「サクラ」は20kW/hの蓄電池を内蔵しています。ふだんはサクラを買い物や子どもの送り迎えなど移動の手段として使用し、災害時はフル充電していれば蓄電池として4人家族で2~3日程度使えます。これに太陽光発電を組み合わせて発電した電気でEVに充電することもできます。

このほか、「エネファーム」や「コレモ」は、オプション機器の使用で発電停止中に停電してもシステムの起動、発電が可能です。

給湯は、停電時も使える石油給湯器があります。停電時には瞬時に専用バックアップ電源に切り替えて4人家族が1日1回、計3日間給湯・シャワーを利用できます。このほかヒートポンプ給湯器のエコキュートは、貯めたお湯を停電時に生活用水として使えます。

 

断熱強化もレジリエンス対策の1つ

最後に、断熱強化も重要なレジリエンス対策です。東日本大震災の時、仙台の高断熱住宅で停電のため暖房が使えなくなっても室温を10度以上に維持できたという話があります。北海道のような寒冷地で冬に災害が起きて暖房が止まったら、省エネ基準に達しない古い住宅では室温が急速に低下し、体調を崩す危険性もあります。

一方、断熱等性能等級6・7レベルの住宅になると、冬場に無暖房でも室温の落ち方が緩やかになり、1枚厚着をするだけで寒さをしのげる可能性が高くなります。断熱強化はいざというときに寒さから住人の命を守ってくれる可能性があります。

北海道SHS会でも、今後は断熱等級6・7の住宅作りを推奨する技術研修会などを開き、一歩進んだ家づくりに取り組んでいきたいと考えています。